朝礼訓辞

平成29年5月 朝礼訓辞

 或る若いOLの話です。
彼女の生家は代々の農家でしたが、もの心がつく前に母親を病気で亡くしました。
 だが、寂しくはなかったと彼女は云っています。
父親に可愛がられて育てられたからです。
 父は働き者でした。3ヘクタールの田んぼと2ヘクタールの畑を耕して立ち働きました。
 また村のためにも尽くしました。行事や共同作業には骨身を惜しまず、事があると
まとめ役に走り廻りました。

 そんな父を彼女は尊敬していました。父娘2人の暮らしは、温かさに満ちていました。
 ところが彼女が高校3年の12月のことでした。その朝、彼女はいつものように登校し、
それを見送った父は、トラクターを運転して畑に出て行きました。
そこで、悲劇が起りました。
 居眠り運転のトレーラーと衝突したのです。彼女はすぐさま病院に駆けつけました。
苦しい息の下から、父は切れ切れ云いました。
「これからはお前1人になる。すまんなぁ・・・」
そうしてこのように続けました。
「いいか、これからは、“おかげさまで、おかげさまで”と唱えて生きて行け。
そうすると必ず皆様が助けて呉れる。“おかげさま”をお守りにして生きて行け」
 それが父の最期の言葉でした。

 父からもらった“おかげさま”のお守りは、彼女を裏切りませんでした。
親切にしてくれる村人に彼女はいつも「おかげさま」と心の中で手を合わせました。
 彼女のそんな姿に村人はどこまでも優しかったのです。

その優しさが、彼女を助け支えました。

 父の最期の言葉が彼女の心に光を灯し、その光が村人の心の光となり、さらに照り返して、
生きる力になったのです。

 瀬戸内寂聴さんという作家がいますが、出家して仏門に入り、日本の精神界をリードされて
います。
 寂聴さんの今年(2017年)のカレンダーが外来にかかっています。
その中に、
 「人間は何のために生まれて来たのでしょうか。
  人は幸福になるために生まれてきたのです。
  ですが、自分1人幸福になっても仕方がありません。
  他者の幸福の手助けをするのが、生まれて来た意義です」
という言葉があります。

 私達も、いつも感謝の心を持ち、周りの人や患者さんに優しい言葉をかけ、
寄り添ってあげましょう。

 5月の連休も終わり、やがて梅雨に入ります。
体調に気をつけながら、今月も一緒に頑張りましょう。  

医療法人純青会 せいざん病院
理事長  田上 容正

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