朝礼訓辞

平成28年3月 朝礼訓辞

 クリーニング業界でも大手の会社になると、クレーム係という人が居て、お客さんのクレーム
に対応しています。
 洋服などのクリーニングに失敗してしまった場合、間違っても「同じようなものを買ってお届
けします」と云ってはならないそうです。同じものが新品で手に入れば、文句はないだろうと考
えがちだが、お客さんの方は何となく釈然としない。それよりも何度もクリーニングし直し、
出来るだけ元の状態に近づけた方がお客さんは満足するのだそうです。

 買って戻す方法には、失敗を償おうとする誠意が感じられない。失敗を御破算にしてしまう、
という印象が残ってしまいます。一方、何度となくクリーニングし直す方法では、一生懸命さと
誠意が伝わります。

 所で、クリーニング業界の一番のお得意さんは誰だと思いますか。いつもピンと糊のついた
白衣を着ている「お医者さん」だと思われるかも知れませんが、それは間違いで、正解は
「ヤクザさん」だそうです。

 ヤクザさんも幹部クラスになると、いつもピシッと決めていて、ワイシャツを毎日取り替えて
アイロンのシワひとつあっても駄目だそうです。ズボンに至っては、もっとうるさいそうです。
だが、このうるさい注文に応えて行く中に、いつの間にかアイロン係は天下一品の腕を磨きます。
自分で開店すると、とても評判がよく大繁盛するそうです。
 ヤクザさんがクリーニング屋のアイロン仕上げの腕を磨きます。こうして世の中には不思議な
連環が形成されて行く訳です。

 北九州などの大きな病院には、警察庁や警察上がりのクレーム係を雇っているところがある
そうです。私達の病院でも、時々クレームがありますが、誠意を思って接していれば、次第に
心を和らげ、理解して貰えます。

 97才の母親を入院させた息子さんが、いちいち看護師さんや看護助手さんに、もっと丁寧に、
もっとやさしく、といろいろ要求していました。庭に除草剤を撒く時には、窓を閉めておきな
さい、との注文もありました。
 私はその息子さんを呼んで話をしました。あなたがお母さんをもっと大事にして貰って、もっ
と心のこもった看護を受けさせてあげたいのなら、そしてもっとお母さんに長生きしてほしい
のなら、病院のスタッフにクレームをつけないで、感謝の気持ちを言葉でかけてあげて下さい。
「母が御世話になります。どうぞよろしく」ただそれだけでよいのです、と。
以来、その息子さんは人が変わったようになり、お母さんも元気になり、他の施設に移られました。

 私の家内の妹が、去る1月28日、鹿児島市内の病院で亡くなりました。膠原病を永年に亘り患
い、間質性肺炎を併発し、呼吸困難が続いていました。72才でした。5人いた兄弟姉妹の中、3人
が亡くなり、家内は一番下の妹と2人きりになりました。余命幾ばくもない病状でしたので、天命
だったと理解していますが、病院のスタッフに手厚い暖かい看護をしていただき感謝しています。

 私達の「せいざん」でも、人生の終末を迎えられる人がこれからも増えて行くと思います。
「御世話になりました。看護師さんや、他のスタッフに大変よくしていただきました」と
御礼を云われ、病院から送り出すことに喜びを感じる医療がしたいものだと思います。

 3月に入りましたが、寒さが続き、インフルエンザが種子島でも猛威をふるっていますので、
呉々も体調に気を付けて下さい。やっと春がやって来た感じです。桜の花がきれいです。

斉藤茂太「いい言葉は、いい人生をつくる」より抜粋

医療法人純青会 せいざん病院
理事長  田上 容正

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