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日本医師会と読売新聞社が主催して毎年「心に残る医療」という体験記のコンクールが
あります。昨年、厚生労働大臣賞を受賞されたのは、千葉県にお住まいの56才の主婦の方
でした。「軌跡」という題でした。
この方は若い時、子宮癌に罹り、手術を受け、子宮の三分の一を切除されましたが、ご主人に
なられる方はそれでも良い、不妊症かも知れない、ということを承知で2人は結婚されました。
それが、密かに病院に通いまさかの妊娠を告げられた時、御主人は大喜びで団地サイズの
鯉のぼりを立てました。まだ、男だと決まった訳でもないのに、それ程に喜ばれたのでした。
ところが、念願が叶い希望の男の子が生まれましたが、その日から御主人は仕事もしなく
なり、お酒ばかり飲むようになりました。まるで抜け殻のようで、その目ははるか遠くばかりを
見ている、生まれた子供を3ヶ月経っても一度も抱いていないのでした。
先天性の難病で3ヶ月の間に4度の手術を受けました。我が子をガラス越しに見る度に、
御主人は涙を流し自分の腕で我が子を抱きたいとの願いはなかなか果たされませんでした。
半年経ってすっかり諦めていたとき、御主人と同じ年の医師が着任し「手術をやって
みましょう」という熱意に同意し、最后の手術が成功し、子供はしぶとく生き残り
「未来(みらい)」と名付けられました。
「未来、御飯の準備をするわよ」と声を掛ければ、はいはい、そして奥の部屋から出て来る
ようになり、机や椅子に手をついて立ち上がろうとするようになりました。
それからどれほどの時間がかかったのでしょう。それは、突然の出来事でした。
病院の診察を終え、待合室に出ようとした時、「お母さん」と云いながら、何と未来君が立ち
上がって数歩歩いたのでした。
その時の驚きは、両親のみならず、診察中の医師も看護師さん達も飛び出して来たほど
でした。
今ではクラッチという松葉杖で歩けるようになり、10数回の手術に負けず、しっかり歩んで
いるそうです。
それから11年経った時、この家族に奇跡が起きたのです。何と双子の男の子が生まれたのです。
何事も諦めないで、希望をもって生きること、真摯に困難に立ち向かうことにより、
必ず「未来」が開けるのです。
7月に入り暑い日が続くと思いますが、体に気を付けて一緒に頑張りましょう。
読売新聞社「心に残る医療」より