朝礼訓辞

平成27年10月 朝礼訓辞

 竹中星郎という精神科医が居られます。何処にお住まいか解りませんが、特別養護老人ホーム
を訪れ、精神科患者の相談にのって居られるそうです。
 先生が訪れる特養に96才と65才の母娘が一緒に入所して居られました。65才の娘さんが一週間
前から食事を摂らない、知的障害のため、心身の状態がつかめない、もしや心の問題かとの相談
がありました。
 本人と母親からの話を聞くと、心理的な問題による拒食ではないようだ。
診察をすると、上腹部に大きな腫瘍がありました。娘さんを部屋に帰し、母親に胃がんかも知れ
ない、外科に診て貰いましょうと告げました。すると母親は安堵の表情を浮かべ次のような話を
されました。

  娘は1才の時、知的障害児と云われました。母親は、一生娘の面倒を見るつもりで、今まで
一緒に暮らして来た。父親は離婚して家族を去り、母親は縫製の内職をしながら、生計を立てて
来ました。
 長男夫婦がおり、母娘を援助しましたがその息子さんも60才の時ガンで死んでしまいました。
周囲の人達から母親は特養へ、娘は知的障害者の施設に入所するよう勧められましたが、彼女は
それを断りました。そして、娘が特養に入所できる65才になった時、2人揃って入所しました。
 「この特養で皆さんの世話になり、本当に安心している。私はこの子より先に死ぬわけには
いかない、と思ってこれまで生きて来ました」母はそう云って、深々と頭を下げました。
 外科の診断は胃がん、手遅れ、手術の適用なしでした。
二ヶ月半後に特養で母親とスタッフに見守られながら息を引き取りました。その後、
母親は肩の荷を下ろしたかのように淡々と暮らしていました。スタッフに会うと、いつも
「ありがとうございました」と繰り返していたそうです。
 そんな二ヶ月後、朝の食事に来ないので、呼びに行ったスタッフがフトンの中で眠るように
亡くなっている母親を発見しました。

 彼女の96年の生を支えて来たのは、娘の介護であり、生き甲斐だったのでしょうか。
障害者を抱えての生活にはいろいろなことがあった筈だが、それをこぼしたり、悔やんだり
することはありませんでした。「私はこの娘より先に死ぬわけには行かないと思って生きて
来た」という言葉から彼女の強い思いが伝わって来るのでした。竹中先生はそのように
述懐に居られます。

 知的障害者は決して人をねたんだり、悪口を云ったりしない。物をほしがらない、
お金をほしがることをしない。知的障害を持った人々は、天からの使いであり、それらの人々に
やさしく接してあげることは、私達自身の心を清めることであり、私達をも天に導いて下さる
ことになるのではないでしょうか。今月も元気に頑張りましょう。

「抜粋のつづり」より

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