田上容正院長の短歌集

       医の道
一、 木蓮が白い花びら咲かせおりその芳香が鼻腔に匂う
一、 野や山に色とりどりの花咲けりその営みに吾驚嘆す
一、 桜花そぼ降る雨に濡れて散るその情景にしばし佇む
一、 八重桜春の最後を飾るかな深紅の太い花びらつけて
一、 白頭鳥が桜めがけて突入す啄んでおり蜜を求めて
一、 故郷に還りて医療ひとすじに尽し来たりて五十と四年
一、 薬剤の仕事せし妻医師吾と小さき医院開きて久し
一、 医の道は天の授けし道なればただひたすらに歩み来たりし
一、 世の人の眞心ありて吾は生く吾も負けじと強く生きねば
一、 強くあれ優しくあれと人に説きその言葉にて吾も生きに来
一、 病む人の貧しき人の友となり過ごしし生も日暮となりぬ
一、 心病むあまたの人を癒さむや住吉の丘に「せいざん」は建つ
一、 校医とし奉仕せし日の馬毛の島あの頃の子等いまは何処に
一、 陽が落ちてほの暗くなる馬毛の沖漁火に似し灯ともりぬ
一、 夕暮になれば心ふさぐらし静っと空見て涙ぐむ妻
一、 コトコトと聞こえし妻の俎板の音が消え去り久しくなりぬ
一、 しとしとと春雨の降る眞昼すぎ庭に向いて余生を思う
一、 限りある生命なりせば桜花ちからのかぎり咲きゆかまほし
一、 されし幾許もなき年月を妻看取りつつ歩いて行かむ
一、 汝れは生く吾も生きねば人の世を心残りのなきを祈りて
              令和六年五月 田上 容正
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